2015年03月31日

SS『幸』(後編)




「なあ」
頭も身体も動かさずに言う。
変に動かすと傷口が開くかもしれないからだ。
「ん?」
「……お前は、僕が先に死んだらって、考えたこと、ないか」
「何や、いきなり」
彼も動かない。
「なんとなく」
「なんとなくで聞くようなことやないやろ」
少し楽しそうだ。
普通そこは真剣に返すところだろうが、多分自分も同じような反応をするだろう。本当にどうしようもない。
「いいや、ほんまになんとなくなんやわ」
「うん、お前らしいわ。――もちろん、あるわ。考えたこと。どっちが先にいってしまうのか、残された方はどうするか、とかね。でもそんなん、簡単には分からん。その時になってみんと」
至極まっとうな答えだ。だがそれは今はどうでもいい。
「やっぱそうか……。やったらさあ、」

「僕がこの先どうなっても、僕を愛せる自信って、あるか」

「……そう来るか」
「そう来るんよ」
彼は軽い感じでうーん、と考えるような声を出したが、すぐに「でも考えるまでもないかあ」と言ってふふ、と笑う。
「あるよ、もちろん。どんなにむごい死に方をしようとも、ある日突然おらんなっても、――俺を裏切っても」
「本気かあ?」
「何言うとん、本気よ」
彼は身体ごと僕に向けてきて、手を握り直した。無意識だろうが、分かりやすい人だ。
「俺に愛やら恋やら教えてくれたんは、お前や。お前が俺の初めて惚れた人で、――俺が最後に、 最期まで愛する人やわ」
「……」
僕はぽかーんとしてしまった。この人がここまで熱く僕への愛情を語ってくれたことがあっただろうか。
「どした?」
「いや、お前がここまで僕への愛をストレートに言うとは」
「そんなに?」
「そんなに。反芻してみろ」
俺に愛やら、と自分の台詞を小声で、ゆっくりと確かめるように口に出す。
すると、その顔がみるみるうちに紅くなっていくのが、弱い月の光でも分かった。
「……うわあ、俺、何言いよん。めっちゃ恥ずかしい」
視線が下がる。心なしかぎゅっと繋いでいる手も熱い。
「そういうことよ。まあ、お前が僕しか見えてないことが分かったけんええわ」
「悪かったなベタ惚れで」
悔しそうな声が可愛い。末期だ。
「大いに結構」
不安はもうなかった。小さなわだかまりが、心の隅から落ちていった。

いつの間にか眠ってしまったらしく、気付けば朝になっていた。
左腕がやけに痛い。右側を見れば、恋人が僕の腕に抱きついて寝息を立てていた。
この痛みですら幸せだ、と言えば、お前はどんな顔をするだろうか。

今日は休日だ。愛しい人を起こすのは、もう少し歪んだ幸福感を楽しんでからにしようか。




posted by 稲城(イナギ) at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月30日

指令

なんか池袋のサンシャインにニトリが出来たらしいので、

新しいテーブルを欲しがっていた親から「行ってこい」との

指令が下ったので、行ってきました。

そこは家具全般というよりも、小物中心の店でしたね。

小さい店だったので、ベッドやらテーブルやらは置いてませんでした。

(布団はありましたが)

でも家具屋って見てるだけでも面白いですね。

明日は学校で成績表の見方説明会と能力診断テストです(前にもやったのですがまたか)。

何故明後日じゃないのか…

(通学定期に必要な証明書は新年度のじゃないと使えないから…

ああその辺まで上は考えんか)


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posted by 稲城(イナギ) at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月29日

SS『幸』(前編)


※暗め
※会話はオール方言
※いちゃいちゃ



「暴れ過ぎや」
「いつものことやろ」
「分かっとる」
深夜。薄明りが灯る部屋に、僕と彼はいた。
小柄な彼は慣れた手付きで、包帯をベッドの上の僕の身体のあちこちに巻いていく。
鈍い痛みは、受傷した時よりはましになったが引く気配がない。
僕は殺し屋だ。
自分はあまり気にしていないが、相当有名らしい。
殺し屋といっても、映画やドラマみたいに建物の屋上や角から身を乗り出して 狙撃するタイプではない。
正々堂々、拳銃やナイフを突きつけて傷つけ、殺りあうのだ。
自分は長時間戦うほどの体力はない。 短時間決戦だ。
昔は今隣にいる相方に「戦い方を変えろ」と何回も言われたが、 一度身についてしまった癖だ、直せるはずもなく、そのうち相方も何も言わなくなった。
今日もまた、一人で何人も相手をしてもうボロボロだ。
包帯を幾重にも巻いた足は、当分使い物にならない。
「飽きないね」
「仕方ないさ」
相方は恋人でもある。
お互いにいい年ではあるが、訳合って籍は入れてない。
「……どうしようもない奴」
そう言いながらも、救急箱を閉じ、部屋の電気を消した彼は布団に潜り込んでくる。
真っ暗ではない。月明かりが差し込んでくる。
「お前こそ」
「言われんでも。何年一緒におると思っとるんよ」
彼の左手が僕の細かい傷だらけの右手を捕える。
お互いの利き手を拘束する。
「確かに」
利き手で手を繋ぐ人は、自分から愛するよりも人から愛されたい人らしい。
僕は愛したい人だから、その辺は歯車が噛み合っている。

しばらくの沈黙。目線も上に向けたままで。
高校の時からの仲だ、お互いに何も言わずに過ごすことにはとうの昔に慣れていた。
だがそのせいか、かえって不安になることもある。
他の人のことを考えてるんじゃないか、とか、 僕がもし先に消えてしまったら、そのうち忘れられるんじゃないか、とかと。
こいつに限ってそんなことはないとは思うし、その考えが自分の醜い嫉妬心から くるものであることも分かっていたが、この晩に限って何故か確かめたくなった。



posted by 稲城(イナギ) at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする